の姿ももう見えない。グルグルグルグルと渦巻き渦巻く奇怪な物象が眼の前で、空へ空へ空へ空へ、高く高く高く高く、ただ立ち昇るばかりである。
 彼は刀を握ったまま湖水の岸へ転がった。彼は昏々と眠ったのである。そうして翌朝百姓によって呼び覚まされたその時には、腰の大小から衣裳まで悉《ことごと》く剥ぎ取られていたものである。

         二四

 これは武士たる葉之助にとっては云いようもない恥辱であった。
 彼は城内の別館で、爾来《じらい》客を避けて閉じ籠もった。そうして病気を口実に、正式の使者の会見をさえ延期しなければならなかった。
 しかし忽《たちま》ちこの噂は城の内外へ拡まった。
「内藤家より参られた病気見舞いの使者殿が不思議なご病気になられたそうな」
「さよう不思議なご病気にな。一名|仮病《けびょう》とも云われるそうな」「不面目病とも申されるそうな」「恥晒《はじさ》らし病とも申されるそうな」――などと悪口を云う者もある。どう云われても葉之助にはそれに反抗する言葉がない。
「噂によれば葉之助という仁《ひと》は、内藤殿のご家中でも昼行灯と異名を取った迂濶《うかつ》者だということである
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