毎夜その掟を破り他出する者がござるとのこと、何んと不都合ではござらぬかな」
「いやいや決してさような者、諏訪家家中にはおりませぬ」
「いやいや家中の侍衆《さむらいしゅう》ではない。ご一門中の立派なお方だ」
「はて、どなたでございましょうや?」
「すなわち若殿頼正公」
「あッ、なるほど!」と思わず云って門番はキョトンと眼を丸くした。
「何んとでござるな。一言もござるまい」
葉之助は笑ったものである。
「いや一言もござりませぬ」
「しからば開門なさるよう」
「やむを得ぬ儀、いざお通り」
ギーと門番は門を開けた。ポンと潜った葉之助は、昼間あらかじめ調べて置いた、野良の細道をサッサッと神宮寺村の方へ歩いて行く。遅い月が出たばかりで野面《のづら》は蒼茫《そうぼう》と光っている。微風に鬢《びん》の毛を吹かせながら急《せ》かず焦心《あせ》らず歩いて行くものの心の中ではどうしたものかと、策略を巡らしているのであった。
間もなく遥かの行手に当たって水狐族の部落が見渡された。家数にして百軒余り、人数にして三百人もあろうか、今はもちろん寝静まっていて人影一つ見えようともしない。夜眼にハッキリとは解らな
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