と云いその許婚《いいなずけ》を柵《しがらみ》と云ったが柵は宗介を愛さずに宗介の弟の夏彦を命を掛けて恋した果て、その夏彦の種を宿し産み落とした娘を久田姫と云った。これぞ悲劇の始まりで、宗介と夏彦とは兄弟ながら恋敵《こいがたき》として闘った。

         二二

 諏訪湖《すわこ》にまたは天竜川に、二人の兄弟は十四年間血にまみれながら闘ったが、その間|柵《しがらみ》と久田姫とは荒廃《あれ》た古城で天主教を信じ佗《わび》しい月日を送っていた。十四年目に宗介は弟夏彦の首級《くび》を持ち己《おの》が城へ帰っては来たがもうその時には柵は喉《のど》を突いて死んでいた。
「俺はあらゆる人間を呪う。俺は浮世を呪ってやる!」こう叫んだ宗介が八ヶ嶽へ走って眷属《けんぞく》を集めあらゆる悪行を働いた後、活きながら魔界の天狗となりその眷属は窩人《かじん》と称し、人界の者と交わらず一部落を造ったということは、この物語の冒頭において詳しく記したところであるが、一人残った久田姫こそ、いわゆる水狐族の祖先なのであって、父夏彦の首級を介《かか》えた憐れな孤児《みなしご》の久田姫は、その後一人城を離れ神宮寺村に住居
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