私の恩人だ。そうして私の恋人だ。私はお前を放しはせぬ」彼の顔からは憂欝《ゆううつ》が消え、新しく希望が現われたのである。
二〇
こういう事があってから十日余りの日が経った。その時諏訪の家中一般に一つの噂が拡まった。
――若殿が毎夜城を出てどこかへ行かれるというのである。――
――それから間もなく若殿に関してもう一つの噂が拡まった。若殿にはこの頃隠し女が出来てそこへ通われるというのである。――
で、人達は取り沙汰した。
「武道好みの若殿に女が出来たとは面白いな」
「さて、どんな女であろうぞ?」「いったい何者の娘であろうな?」「家中の者の娘であろうか?」「それとも他国の遊女売女かな?」「湖水の石棺を引き上げようというあの乱暴な計画《もくろみ》がどうやらお蔭で止めになったらしい。これだけでも有難い」「女大明神と崇《あが》めようぞ」「それにしてもその女はどこに囲われているのであろう?」「どうぞ一眼見たいものだ」「いずれ美人に相違あるまい」「石部金吉の若殿をころりと蕩《たら》した女だからの、それは美人に相違ないとも」「いやいや案外そうではあるまい。奇抜好みの若殿だ、
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