と見る間に牡丹の花弁《はなびら》さながらの、血汐がポッカリと浮かんで来た。と、次々に深紅の血汐が、ポカリポカリと水面へ浮かび、その辺一面見ている間に緋毛氈《ひもうせん》でも敷いたように、唐紅《からくれない》と一変した。
侶船《ともぶね》の武士達はこれを見ると、いずれも蒼褪《あおざ》めて騒ぎ立て、
「ご帰館ご帰館!」と叫ぶ者もある。
「灘兵衛が殺されたに相違ない」「悪魚の餌食となったのであろう」「いや巫女どもの復讐じゃ!」「水狐族めの復讐じゃ!」
「ご帰館ご帰館!」「船を廻せ!」互いに口々に詈《ののし》り合う。
「待て!」とこの時頼正は、凛然《りんぜん》として抑え付けた。「帰館する事|罷《まか》り成らぬ! 誰かある、湖中へ飛び入り灘兵衛の生死を見届けるよう!」
「…………」
これを聞くと船中の武士ども一度にハッと吐胸《とむね》を突いた。誰も返事をする者がない。互いに顔を見合わせるばかりだ。
「誰かある誰かある、灘兵衛の生死確かめよ!」
船首《へさき》に立った頼正は地団駄《じだんだ》踏んで叫ぶのであったが、しかし進み出る者はない。
「臆病者め! 卑怯《ひきょう》者め! それほど悪魚が
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