あったが、幾《いく》十|丈《じょう》とも知れないほど深く湛えた蒼黒い水は、頼正の眼を遮《さえぎ》って水底を奥の方へ隠している。
と、頼正は眼を上げて、二十隻の供船《ともぶね》を見廻したが、扇を高く頭上へ上げると、横へ一つ颯《さっ》と振った。
すると、ご座船に一番近い一隻の船の船首から、裸体《はだか》の男が身を躍らせ湖水の中へ飛び込んだ。パッと立つ水煙り! キラキラと虹《にじ》が射したのは日がまだ高く昇らないからであろう。
若殿頼正を初めとし、船中の武士は云うまでもなく、岸に群がっている町人百姓まで、固唾《かたず》を呑んで熱心に水の面を眺めている。
飛び込んだ男は灘兵衛《なだべえ》と云って、わざわざ安房《あわ》から呼び寄せたところの水練名誉の海男《あま》であったが、飛び込んでしばらく時が経つのに水の面へ現われようともしない。しかし間もなく湖水の水が最初モクモクと泡立つと見る間に、忽《たちま》ちグイと左右に割れ、その割目から灘兵衛が逞《たくま》しい顔を現わした。プーッと深い呼吸《いき》をすると、水が一筋銀蛇のようにその口から迸《ほとばし》る。片手で確《しっか》り船縁《ふなべり》を掴
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