ついている軍船で鳴らす鐘に相違ない。
ボーンと、一つ鮮明《はっき》りと最初の鐘が鳴らされた。続いて二つ目の鐘の音が殷々《いんいん》として響いて来た。
「二点鐘!」と柵は聞き耳をたてながら呟いた。しかし間もなく三つ目の鐘が鮮かに尾を曳いて鳴り渡った。そしてそのまま絶えたのである。三点鐘が鳴ったのだ。恋しい夏彦は帰らずに、名ばかり許婚の宗介が果たし合いに勝って帰って来たのだ。
柵の顔は蒼白となり眼ばかりギラギラと輝いたが、その眼で夏彦の画像を見詰め物狂わしくこう叫んだ。
「夏彦様夏彦様! あなたは永久にこのお城へはお帰りなさらないのでござりますね。十四年の間、恋と嘆《なげ》きに明かし暮らした妾《わたし》の胸へ二度とお帰りなさらないのだ」
彼女はにわかに冷ややかな眼で宗介の画像に見入ったが、
「あなたがこのお城へ帰ったとて何が待っておりましょうぞ。お祈祷《いのり》をする尼様と、あなたにとっては敵の子と、そして冷たい許婚の屍《むくろ》ばかり……あなたの希望《のぞみ》はこれこのように消えてしまったのでござりますぞ」――云いながら龕《がん》の前へ行き点《とも》された灯火を吹き消した。
それ
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