町であった。
一団の人影が走って行った。教主の一団と想像された。
「それ!」
と葉之助は声をかけた。猛獣の群が追っかけた。葉之助は直走《ひたはし》った。
火消しの群が走って来た。町々の人達が駈け付けて来た。
ワーッ、ワーッと鬨《とき》の声を上げた。
猛獣の群が走るからであった。
返り血を浴びた葉之助が、血刀を提げて走るからであった。
獣の群は狂奔《きょうほん》した。
おりから空は嵐であった。火が隣家へ燃え移った。
二一
教主の一団が走って行った。その後を猛獣が追っかけた。そうしてその後から葉之助が走った。
深夜の江戸は湧き立った。邪教の道場は燃え落ちた。火が八方へ燃え移った。町火消し、弥次馬、役人達が、四方八方から駈けつけて来た。
悲鳴、叫喚、怒号、呪詛。……ここ芝《しば》の一帯は、修羅の巷《ちまた》と一変した。
その同じ夜のことであった。
遠く離れた浅草は、立ち騒ぐ人も少かった。しかしもちろん人々は、二階や屋根へ駈け上がり、遥かに見える芝の火事を、不安そうに噂した。
「芝と浅草では離れ過ぎていらあ。対岸の火事っていう奴さ。江戸中丸焼けにならねえ限りは、まず安泰というものさ。風邪でも引いちゃあ詰まらねえ、戸締りでもして寝るがいい」
こんなことを云って引っ込む者もあった。神経質の連中ばかりが、いつまでも芝の方を眺めていた。
観音堂の裏手の丘から、囁く声が聞こえて来た。
「おい、芝が火事だそうだ」
「江戸中みんな焼けるがいい」
「そうして浮世の人間どもが、一人残らず焼け死ぬがいい」
「そうして俺ら窩人ばかりが、この浮世に生き残るといい」
夜の闇が四辺《あたり》を領していた。窩人達の姿は朦朧《もうろう》としていた。立っている者、坐っている者、歩いている者、木へ上っている者、ただ黒々と影のように見えた。
遥か彼方《あなた》の境内《けいだい》の外れに、菰《こも》張りの掛け小屋が立っていた。興行物《こうぎょうもの》の掛け小屋であった。窩人達の出演《で》ている掛け小屋であった。その掛け小屋の入り口の辺に、豆のような灯火《ともしび》がポッツリと浮かんだ。それが走るように近寄って来た。火の玉が闇を縫うようであった。窩人達の側まで来た。それは龕灯《がんどう》の火であった。龕灯の持ち主は老人であった。窩人の長《おさ》の杉右衛門で、
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