とは云え余りに野性が多い。いわゆる磨かぬ宝玉じゃ……南条右近の三男と云うがこれは少々|眉唾物《まゆつばもの》だ。都育ちの室咲《むろざ》き剣術、なかなかもってそんなものではない……山から切り出した石材そっくり恐ろしく荒い剣法じゃ……そろそろ呼吸《いき》が荒くなって来たぞ、あまりに神気を凝《こ》らし過ぎどうやらこれは悶絶《もんぜつ》しそうだ。参った!」と云って鉄扇を引いた。
「はっ」と驚いた葉之助、トントンと二足前へ出たが、「参りましてござります!」
「前途有望、前途有望、将来益※[#二の字点、1−2−22]お励みなされ!」
「はい、有難う存じます」葉之助は汗を拭く。
「誰に従《つ》いて学ばれたな?」
「はい、父右近に従きまして」
「ははあ、そうしてそれ以外には?」
「師は父だけにござります」
「それは不思議、しかとさようかな?」
「何しに偽《いつわ》りを申しましょう」
「それにしては解《げ》せぬことがある」
 清左衛門は首を捻った。
「未熟者ではござりまするが、今日よりご門弟にお加えくだされませ」
「いや」と、不思議にも清左衛門は、それを聞くと冷淡に云った。「少しく存ずる旨《むね》もあれば、門に加えることなり兼ねまする」
「……存ずる旨? 存ずる旨とは?」葉之助は気色《けしき》ばんだ。
「存ずる旨とは、読んで字の如しじゃ」

         七

「葉之助、ちょっと参れ……聞けばお前は立川町の松崎道場で大勢を相手に腕立てしたと云うことであるが、よもや本当ではあるまいな?」
「は……本当でございます」
「なぜそのようなことをしたか」
「止むを得ない仕儀に立ち至りまして……」
「止むを得ない仕儀? どういう訳かな?」
「あらかじめ企《たくら》んだものと見え、道場の前へ差しかかりますと、ご門弟衆バラバラと立ち出で、無理|無態《むたい》に私を連れ込み、是非にと試合を望みましたれば……」
「おおさようか、是非に及ばぬの……噂によれば近藤、白井、山田等という門弟衆を、苦もなく打ち込んだということだが?」
「はい、相手が余り弱く……」
「うん、それで勝ったというか」
「つい勝ちましてございます」
「松崎殿とも立ち合ったそうだの」
「一手ご指南にあずかりました」
「松崎殿はお強いであろうな」
「まるで鬼神《きじん》でござります」
「そうであろうとも、あのお方などは古《いにしえ》の剣
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