薬が惚れ薬だ。アッハッハッハッ洒落た花だろう。茶の中へ垂らして飲ませるのさ。間違い無く女が惚れる。お望みなら分けてやろう。……さて最後に此花だ。若いの、見覚えがあるだろうな?」
 深紅の花を指差した。
 焔が燃え乍ら凍ったような、凄い程紅い花であった。
 正しく香具師には見覚えがあった。
「唐土渡来の眠花!」
「然うだ」老人は気味悪く笑った。

     一二

「然うだ」と老人は最う一度云った。「唐土渡来の眠花だ。二年生草本だ。茎の高さ四五尺に達し、その葉には柄が無い。葉序は互生、基部狭隘、辺縁に鋸歯《きょし》状の刻裂がある。四枚の花弁と四個の萼《がく[#「がく」は底本では「かく」と誤記]》、花冠は大きく花梗は長い。雄蕊は無数で雌蕊は一本、花弁散って殼果を残し、果は数室に分かれている室には無数の微細の種子が、白胡麻のように充ちている。これから採った薬液を、幻覚痲痺[#「痲痺」は底本では「痳痺」と誤記]性眠剤と呼ぶ。その採り方がむずかしい」
 老人の説明は音楽のような、快い調子を持っていた。
「花落ちて三週間、果実の表面が白粉を帯びる。その時鋭い匕首を以て、果実へ三筋切傷を付ける。この
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