る。一体どうしたというのだろう」
万般が法則に叶っていて、それ一つだけが破格だけに、彼には不思議でならなかった。
「納屋で無し厩舎で無し、湯殿で無し離座敷でなし、どういう用のある建物だろう?」
どう考えても解らなかった。
「不|躾《しつけ》乍ら訪問して見よう」
彼はこう思って丘を下りた。表門は厳重に鎖されていた。しかし潜戸が開いていた。構わず内へ這入って行った。森閑として人気が無かった。可成り大きな屋敷だのに、人の姿の見えないというのは不思議と云えば不思議であった。玄関に立って案内を乞うた。
「ご免下さい。ご免下さい」
どこからも返辞が来なかった。尚二三度呼んで見た。矢張り返辞は来なかった。香具師は些か当惑した。
「裏の方にでもいるのだろう」
裏の方へ廻って行った。だが誰もいなかった。
ひっそりとして寂しかった。
近所に家は一軒も無かった。
香具師は次第に大胆になった。例の奇形な建物の方へ、ズンズン足早に進んで行った。
建物の戸口が開いていた。で彼は這入って行った。
一一
一歩踏み入った香具師は「やっ」と云って眼を見張った。
長方形の建物一杯、天上の
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