」
こう云い乍ら、模型屋敷の小川の一所に飛び出している、[#底本では「。」]小さい岩型の痣の頭を、香具師は指先でチョイと押した。と、洵《まこと》に不思議にも、水が瞬間に無くなって了った。と思う間もあらばこそ、屋敷の四方から其水が、沸々盛り上って湧き出して来た。そうして見る見る屋敷の四方をグルリとばかりに取り巻いた。門の影や土塀の影や、木立の影がその水面に、逆に映っている態は、小さい小さい竜宮城が、現出したとしか思われない。
「さて大水が現れて屋敷の周囲を取り巻いた。百人の敵が襲って来ても、悠に二日は防ぐことが出来る。次に此処に竹藪がある。これが又非常に重大な武器だ。ひっ削いで火に燻らせ、油壺の中へザンブリと入れたら、それで百本でも二百本でも、急拵えの竹槍が出来る。が、これは真竹に限る。八九の竹や漢竹では、鳥渡そういう用には立たねえ。……ところで屋敷の裏庭にあたって、石灯籠が一基ある。こいつが只の石灯籠じゃあねえ。嘘だと思うなら証拠を見せる。おおお立合い、誰でもいい、鳥渡台笠へ障ってくんな。遠慮はいらねえ障ったり障ったり」
群集の中に職人がいたが「おお親方俺が障るぜ」
云い乍ら腕を
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