さすがに自慢をするだけあって模型としては完全であり、殊には精巧を極めていた。

     四

「さあ是だ!」と叫び乍ら香具師は模型を右手に捧げた。「畳の原理から説くことにしよう。由来畳というものは、神代時代からあったものだ。むかし天照大神の御孫、瓊々杵尊《ににぎのみこと[#「みこと」は底本では「みごと」と誤記]》の御子様に、彦火々出見《ひこほほでみ》というお子様があられ、大綿津見《おおわだつみ》へ到らせ給うや、海神豊玉彦尊《かいじんとよたまひこのみこと》、八重の畳を敷き設け、敬い迎うと記されてある。これ畳の濫觴だ。夫《それに》日本の畳たるや八八《はっぱ》六十四の目盛がある。六十四卦に象ったものだ。で、人間の吉凶禍福は、畳にありと云ってもよい。次に建築法から云う時は、忌む可きことが数々ある。神木を棟に使ってはならない。又逆木を使ってはならない。そうだ特に大黒柱にはな。運命が逆転するからよ。さて次には不祥事だ。すべて柱の礎《いしずえ》へ、石臼などを置いてはならない。地中に兜や名剣あれば、子孫代々出世はしない。石塔類でも埋もれていれば、死人相継いで出るだろう。こいつは説明にも及ぶまい。石の
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