うで陰々として物凄い。三人はにわかに気味悪くなった。
とたんに、ヒェーッと絹を裂くような鋭い掛け声が奥の方から沈黙《しじま》を破って聞こえたかと思うと、シューッ空を切る矢音がして、すぐ小手返る弦《つる》の音がピシッと心地よく響き渡った。「あッ」と三人はそれを聞くとほとんど同時に叫びを上げたが、それは驚くのが理《もっとも》である。掛け声、矢走り、弦返《つるがえ》り、それが寸分の隙さえなく日置流《へきりゅう》射法の神髄にピタリと箝《は》まっているからである。
主馬が真っ先に逃げ出したのはよくよく驚いたのに相違ない。三人往来へ走り出るとホッと額の汗を拭った。
「我ら日置流の射法を学びここに十年を経申すがこれほど凄じい弓勢にはかつて逢ったことございませぬ」
「全く恐ろしい呼吸でござったのう」
「妖怪でござるよ。妖怪でござるよ」
三人が口々にこう云ったのは不思議な屋敷の門前から五町あまりも逃げのびた時で、三人の胸は早鐘のように尚この時も脈打《みゃくう》っていた。
翌日三人は打ち揃って改めてその屋敷まで行って見たが、そこにはそんな屋敷はなくて柏屋という染め物店が格子造りに紺の暖簾《のれん》
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