る。
「小六、お前開けてやんな」
 職人|頭《がしら》の忠蔵は中で一番若輩の小六というのへ顎をしゃくったがいっかな小六が聞かばこそ泣きっ面をして首を縮めた。
「チェッ」と忠蔵は舌打ちをしたが、「由さんお前お輿《みこし》を上げなよ」
「へ、どうぞあなたから」――由蔵はこう云うと舌を出したが、にわかにブルッと身顫《みぶる》いをした。さも恐ろしいというように。
「松公、お前立つ気はないか?」
「どうぞお年役にお前さんから……私はどうも戸を開けるのが昔から不得手でございましてね」
「つまらない事云わねえものだ。戸を開けるに得手も不得手もねえ。みんな厭なら仕方がねえ」忠蔵はひょい[#「ひょい」に傍点]と立ち上がったがどこか腰の辺が定《き》まらない。土間へ下りると下駄を突っかけそこから仕事場を振り返り、
「おい確《しっか》り見張っていねえ」
 こう云ったのは忠蔵自身がやはり恐い証拠でもあろう。それでも足音を忍ばせてそっと表戸へ近寄ると潜戸《くぐり》の閂《かんぬき》へ両手を掛けた。
 とたんにトントンと叩かれたのでハッと一足退いたが、連れて閂がガチリと外れ、その音にまたギョッとしながら忠蔵は店へ飛び
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