た方はきっと追っかけるだろう。乱闘となったら見物にも、善男善女にも怪我人が出来よう。奉納の釣鐘にも穢れがつき、大勢の寄進者も、傷付くかもしれない。
「逃げろ逃げろ」と云う者もある。
「一まずだし[#「だし」に傍点]を引っ返せ」と喚き立てる者もある。
 あぶないあぶない折柄であった。
「どいた、どいた、ご免下せえ」
 ドスの利く声を掛けながら、群集を左右に掻き分け、だし[#「だし」に傍点]に近寄った人物がある。
 三十がらみで撥髪《ばちびん》頭、桜花を散らせた寛活《かんかつ》衣裳、鮫鞘《さめざや》の一腰落し差し、一つ印籠、駒下駄穿き、眉迫って鼻高く、デップリと肥えた人物である。
 丁寧ではあるが隙のない態度、ジロリと一同を見廻したが、
「大変な騒動になりましたな。さぞ皆様もお困りでしょう、ケチな野郎ではございますが、私《わっち》がちょっと仲裁役、一肌脱ぐことに致しましょう、と云いたいんだがどう致しまして、すっぱだか[#「すっぱだか」に傍点]になって踊ってみせます。ついては釣鐘を借りますよ。傷は付くかもしれませんが、まずまず血では穢されますまい。まっぴらご免」と云ったかと思うと、白の博多の
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