の釣鐘が私に役立たせてくれたからで、目出度い釣鐘、有難い釣鐘、さあさあそれでは元の座へ」
龍頭を掴むとグ――ッと引き上げ、肩へ[#「肩へ」は底本では「肩え」]担ぐと弥左衛門、だし[#「だし」に傍点]の上へそっと置いた。
「さあさあ皆さん景気よく、奉納寄進しておくんなせえ」
声を掛けると美しい女や男達、ドッと喜びの声を上げ、すぐに続けて賑やかな囃、それからだし[#「だし」に傍点]を引き出した。無事に寄進が出来たのである。
見ていた群集も賞讃し、
「釣鐘様! 弥左衛門様!」
「釣鐘の親分! 釣鐘弥左衛門!」
――爾来人々弥左衛門を、釣鐘弥左衛門と称したが、それ程の釣鐘弥左衛門も、兄分と立てなければ[#「なければ」は底本では「なけれは」]ならなかった[#「ならなかった」は底本では「ならなっかた」]のは、緋鯉《ひごい》の藤兵衛という町奴であった。
4
ある日と云ってもずっと後だ――寛文年間のことである。
「兄貴おいでか」と云いながら、訪ねて来たのは釣鐘弥左衛門。
「これは釣鐘、珍らしいの」
こう言ったのは緋鯉の藤兵衛、長火鉢の前に坐っている。
向かいあって坐った釣鐘弥左衛門、今
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