助太刀の刀を揮った迄、これとて考えれば当然のこと、志合って組をつくり、一緒の行動とる以上、助け助けられるに不思議はござらぬ、矢部を渡さば成敗する。かよう云われる貴殿の言葉を、承知致したその上で、矢部を貴殿に渡したが最後、拙者の面目丸潰れじゃ。お断わりお断わり、決して渡さぬ!」
これも立派に云い切った。
「なるほど」と云ったは十三郎、
「お言葉を聞けばごもっとも、よもやムザムザ矢部殿を、我々の手へはお渡しあるまい。止むを得ぬ儀、貴殿と拙者、ここで果し合い致しましょう」
「左様さ」と云ったが土岐与左衛門、承知するより仕方なかった。
「よろしゅうござる、お相手致そう」
それから部下をジロリと見たが、
「これ貴殿方、助太刀無用、我ら二人だけで立ち会い致す。よろしいかな、お心得なされ」
こうは云ったが眼使いは、その反対を示していた。一同刀を抜き連らね、一斉に引っ包んで打って取れ。よいかよいかと云っているのである。
「いざ」と云うと土岐与左衛門、大刀[#「大刀」はママ]サッと鞘ばしらせた。
グーッと付けたは大上段、相手を呑んだ構えである。
「いざ」と同時に十三郎、鞘ばしらせたが中段に付けた。
シ――ンと二人とも動かない。
春陽を受けて二本の太刀、キラキラキラキラと反射する。
それへ舞いかかるは落英である。
ワ――ッと群集は鬨を上げた。だが直ぐに息を呑んだ。と、にわかに反動的に、浅草の境内ひっそりとなり、昔ながらに居る鳩の啼声ばかりが際立って聞こえる。
土岐与左衛門これも免許、その流儀は無念流しかも年功場数を踏み、心も老獪を極めている。
相手の構えを睨んだが、
「油断はならぬ。立派な腕だ。しかし若輩、誘ってやろう」
ユラリと一歩後へ引いた。
果して付け込んだ深見十三郎、
「むっ」と喉音《こうおん》潜めた気合。掛けると同時に一躍した。ピカリ剣光、狙いは胸、身を平《ひら》めかして片手突き!
だが鏘然と音がした。
すなわち与左衛門太刀を下ろし、巻き落とすイキで三寸の辺り、瞬間に払ったのである。
十三郎、刀を落としたか?
落とさばそこへ付け込んで、無念流での岩石落とし、肩をはねよう一刀にカッ! と与左衛門は[#「与左衛門は」は底本では「与左衛門を」]見張ったが、期待外れて十三郎、飛び退って依然同じ構え、中段に付けて揺がない。
と、思ったも一刹那、年若だけ
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