さんも急いで来るがいいよ。さあさあおいでよ、猪右衛門さん!」
「よし来た、急ごう、それ走れ」
そこで玄女と猪右衛門は右近丸と民弥を尻目にかけ、サーッと四ツ塚の方へ走り出した。怒りをなしたのは右近丸である。
「待て!」と一声呼びかけたが、すぐに民弥を振り返った。
「ご覧の通りの彼等の有様、人形の秘密を知った上で、ペテンにかけて買い取った様子、とうてい尋常では返しますまい。もうこうなっては止むを得ませぬ、腕を揮うは大人気ないが、今は揮わねばなりますまい。貴女《あなた》にもご用意、玄女とやらいう女へ、掛かって人形をお取り返し下され、拙者は一方猪右衛門とやらへ、掛かって懲らすことに致しましょう」
腰の長太刀《ながたち》を引き抜いた。
「はい、それではこの妾《わたし》も」云うと同時に娘の民弥はグッと懐中《ふところ》へ手を入れたが、キラリと抜いたは懐刀である。
「待て!」ともう一度声を掛け、逃げて行く猪右衛門の背後《うしろ》から、颯《さっ》と一刀浴びせかけた。
「ワッ」と云う喚き! 猪右衛門だ! もんどり[#「もんどり」に傍点]打って倒れたが、不思議と血潮は流れなかった。当然である。右近丸がこ
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