と猪右衛門は人形を、ヒョイとばかりに突き出した。
「おやマァ大きな人形だねえ。そうして随分立派じゃアないか。どれどれ妾《わたし》に抱かせておくれよ」
「オッとよしよし抱くがいい」
玄女は人形を受け取ったが、月光に隙かしてつくづく見た。
人形は精巧に出来ている。顔など活きているようだ。今にも物を云いそうである。
「成程ねえ、この人形なら、物を云うかもしれないねえ」
玄女は感心したらしい。で、猪右衛門のやったように、人形の手を引っ張ったり、足を引っ張ったりしたけれども、人形は物を云わなかった。
「とにかくここに突っ立って、人形いじりをしていたって、どうも一向はじまらないよ。家へ帰ってゆっくりと、人形いじりをすることにしよう」と玄女はスタスタ歩き出した。
「それがいいいい」と猪右衛門も、玄女と並んで歩き出した。しかし十間とは行かなかったろう、背後《うしろ》から呼びかける声がした。
「古道具買さん古道具買さん、ちょっとお待ち下さいまし」
それは女の声であった。
驚いた玄女と猪右衛門が足を止めて振り返ると、いずれ走って来たのだろう。息を切らせた若い娘と、若い武士とが立っていた。
娘は
前へ
次へ
全125ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング