、美しい民弥が頸垂《うなだ》れている。その前に右近丸が立っている。若くて凜々しい右近丸が。
まさに一幅の絵巻物だ。
さてその日から数日経った。
「物買いましょう、お払い物を買いましょう」
こういう触声《ふれごえ》を立てながら、京を歩いている男があった。他ならぬ香具師《やし》の猪右衛門《ししえもん》である。古道具買《こどうぐか》いに身をやつし[#「やつし」に傍点]、ノサノサ歩いているのである。
足を止めたのは南蛮寺の裏手、民弥の家の前であった。
「家財道具やお払い物、高く買います高く買います」一段と声を張り上げて、こう呼びながら眼を光らせ、民弥の家を覗き込んだ。
11[#「11」は縦中横]
民弥の家の一つの室《へや》では二人の男女が話していた。
その一人は民弥であり、もう一人は右近丸であった。
父を失い孤児《みなしご》となった、民弥の身の上を気の毒がり、右近丸は見舞いに来たのである。しかし勿論一方では、殺された不幸の弁才坊が、生前研究した唐寺の謎の、研究材料を探し出し、主君信長公の命令通り、高価の金で買い求めようと、そうも考えて来たのであった。
窓から昼の陽が射し込ん
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