寧にあつかう[#「あつかう」に傍点]でございましょう」
「南蛮寺の裏の貧しい家に、住居《すまい》をしているということだ」
またも浮木は云い出した。
「で慇懃に訪れて、事情を詳しく話すがいい」
「承知いたしましてございます」こう答えたのは銅兵衛である。
「唐姫様が仰せられた、お前達ばかりをやった[#「やった」に傍点]日には、人相が悪く荒くれてもいる、恐らく民弥という若い娘は怯えて云うことを聞かないだろうと。で妾《わたし》も行くことになったが、憎い信長の管理している、京都の町を見ることは、この妾としては好まないのだよ」
「ご尤も千万に存じます」頷いたのは三郎太で「しかし我々が長い年月、心掛けていました南蛮寺の謎が、解かれることでございますから……」
「そうともそうともその通りだよ。だから妾も厭々ながら、京都の町へ行くというものさ。……が民弥という娘ごが、この私達の云うことを、順直《すなお》に聞いてくれないことには、その謎も解くことは出来ないだろう」
「もし民弥という娘ごが、不在でありましたら如何《いかが》したもので」不安そうに聞いたのは銅兵衛であった。
「さあそれが心配でね」浮木の声は心配そうである。
「だが大概は大丈夫だろう。若い娘のことであり、父に死なれたということではあり。それにもう今日も夜になった、町など歩いてはいないだろう、大方は家にいるだろう」
で一同は歩いて行く。
どうやら話の様子によれば娘の民弥に用があって、民弥の家へ行くのらしい。
しかし肝心のその民弥が、家にいないことは確かである。桐兵衛という人買の家に、捕らえられている事は確かである。
一同は山を下って行く。ズンズンズンズン歩いて行く。
誰が民弥を手に入れるだろう?
うまく猿若が助け出すかしら?
遠国廻りの人買共が、それより先に買い取るだろうか?
それとも浮木の一団が、民弥の居場所を探し出すかしら?
とにかく一人の民弥を挿んで、三方から三通の人達が、競争をしているのであった。
ところで肝心のその民弥であるが、この頃どうしていただろう。
恐ろしい人買の桐兵衛の家の、真暗な二階の一室に厳重に監禁されていた。
雨戸がビッシリと閉ざされている。出入口も厳重に閉ざされている。逃げ出すことは絶対に出来ない。その上両手は縛られている。開けようとしても開けることが出来ない。
彼女は格闘し
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