いそくぎょく》」となりますそうで」
「ははあなるほど、そうであったか。扁を取ったり旁《つくり》を取ったり、色々にして造った字だな。いかさまこれでは解らないはずだ」
「さてそこで白旗様、どうして昨夜はこの屋敷へ、忍び込まれたのでございますかな?」
するとクルリと弓之助は、女勘助の方へ体を向けた。
「おい勘助、偉いことをやったな。森の中でよ、社の森で」
「えっ」と勘助は胸を反《そ》らせた。「へえ、お前さんご存知で?」
「あんまり見事な業《わざ》だったので、後からこっそり尾行《つけ》て来た奴さ」
「あっ、さようでございましたか」女勘助は手を拍った。「そこでこの屋敷へ忍び込んだので?」
「そうさ天明の六人男、そいつがみんな[#「みんな」に傍点]揃ったとあっては、ちょっと様子も見たいからな」「ああこれで胸に落ちた」こう紫紐丹左衛門がいった。
北町奉行所の役宅であった。
その一室に坐っているのは、奉行曲淵甲斐守であった。銅銭会縁起録が開かれたまま、膝の上に乗っていた。
「往昔《おうせき》福建省福州府、浦田《ほだ》県九連山山中に、少林寺と称する大寺あり。堂塔|伽藍《がらん》樹間に聳え、人をし
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