ふみ》そっくり[#「そっくり」に傍点]だ。見ざる聞かざるいわざるだ。将軍家よ見てはいけない。人民どもよ見てはいけない。将軍家よ聞いてはいけない。人民どもよ聞いてはいけない。将軍家よいってはいけない。人民どもよいってはいけない。一口にいえば上をも下をも木偶坊《でくのぼう》に仕立てようとしているのだがこいつは非常に危険だ。聞かせまいとすれば聞きたがる。いわせまいとすればいいたがる。見せまいとすれば見たがるものだ。圧迫するということは、いつの場合でもよくはない。圧迫、圧迫、さて圧迫! その次に起こるものは爆発だ。この爆発は恐ろしい。一切の物を破壊しようとする。いっそうそれより処士横議、自由に見させ自由にいわせ、自由に聞かせた方がいいではないか。遙かにその方が安全だ。琉《は》け口を作ってやるのだからな。……ところでここはどこだろう?」
 そこは浅草馬道であった。
「お色め、今頃どうしているだろう? まだ妾《めかけ》にはゆくまいな。ちょっと様子を見たいものだ。別れた、女の様子を見る。未練と人はいうだろう。だが幸い人気《ひとけ》がない。おりから深夜で月ばかりだ。月に見られたって恥ずかしいものか。し
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