んのために勉強するのだろう? 論語を読んでどうなるんだろう? どこかの世界で役立つかしら? どうもおれには疑問だよ。そんな事より行儀でも習って、頭の下げっ振りでも覚えるんだね。そうでなかったら幇間《ほうかん》でも呼んで、追従術《ついしょうじゅつ》を習うんだね。こいつの方がすぐ役立たあ。お菊お前はどう思うな?」
「若旦那様何をおっしゃるやら、ホッホッホッホッ、そんな事」小間使いのお菊は無意味に笑った。
「ホッホッホッホッそんな事か? なるほど、こいつも処世術だ。語尾を暈《ぼか》して胡麻化《ごまか》してしまう。偉いぞお菊、その呼吸だ。御台所《みだいどころ》に成れるかもしれねえ。俺はお前の弟子になろう、ひとつ俺を仕込んでくれ」
「厭でございますよ、若旦那様」小間使いのお菊は逃げてしまった。
 弓之助は寝ることにした。
「どぎった[#「どぎった」に傍点]事はないものかしら? ひっくり[#「ひっくり」に傍点]返るような大事件がよ。俺はそいつへ食い下がってゆきたい。何んだか知らねえがおれの心には変てこな塊《かたまり》が出来ている。ともかくもこいつを吐き出したいものだ。つまり溜飲を下げるのさ」

 
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