企てなども、その狂った眼から、性急に計画されたものと、こう解しても、誤りはあるまい」
フラフラと矩之丞は歩き出した。
「失敗なさろう! 失敗なさろう!」
譫言《うわごと》のように呟いた。
「とはいえ騒動の失敗は、まだまだ我慢することが出来る。しかし盗賊の汚名だけはどんなことをしてもお着せしてはならない」
矩之丞はフラフラと歩いて行く。
「うむ」と云うと足を止めた。
「犠牲になろう、この俺が! 辞す所でない、裏切者の汚名!」
尚フラフラと歩いて行く。
「人を殺したこの俺だ、浪人をしてゴロン棒となり、汚名悪名受けてやろう! 手段はない、この他には。……」
どことも知れず行ってしまった。
後にはザワザワと晩春の風が夜の木立を揺すっている。
天保七年四月中旬の、ある一夜の出来事である。
3
さてその日から幾日か経った。
その時天王寺の勝山通りで、又物騒なことが行なわれた。
まずこのような段取りであった……
一人の若い侍へ、覆面武士達が斬りかかったのを、若い侍が無雑作に、力を抜いて叩き倒し、最後に一人をたたき倒した時、懐紙で刀身をぬぐったのである。
それから懐紙をサ
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