いた》たないからであった。所々に林がある。それにさえほとんど青色がなく、幹は白ちゃけて骨のように見え、葉は鉄錆て黒かった。どっちを眺めても農夫などの、姿を見ることは出来なかった。
丁寧松は考え込んだ。
20[#「20」は縦中横]
「さあどこから手を出したものか、からきし[#「からきし」に傍点]俺には見当が付かない。一ツとひとつ珠を弾くか! 柏屋の奥庭の開けずの間さ! ……二ツともう一つ珠を上げるか。久しい前から眼を着けていた、鮫島大学の問題さ。こいつもうっちゃって[#「うっちゃって」に傍点]は置かれない。敵意を示して来たんだからなあ。……三ともう一つ珠を弾くか。加賀屋の主人の行方不明さ。そうして倅の行方不明さ……もう一つ珠を弾くとしよう。宇和島という武士も問題になる。――四ツ事件が紛糾《こんがらか》ったってものさ。……ええとところで四ツの中で、どれが一番重大だろうかなあ?」
事件を寄せ集めて考え込んだ。
「四ツが四ツお互い同士、関係があるんじゃアないかしら?」
そんなようにも思われた。
「とすると大変な事件だがなあ」
関係がないようにも思われた。
「関係があろうがなかろう
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