飛び越した。
 と、もう引き抜いていたのである。
「無礼! 誰だ! 宣《なの》らっしゃい! 拙者宇津木矩之丞、怨みを受ける覚えはない」
 ピッタリ青眼に太刀を構え、先ずもって声をこう掛けた。
 二人ながら返事をしなかった。星空の下に突っ立っている。そうしてヂリヂリと逼って来る。
「はてな?」と矩之丞が呟いたのは、敵に見覚えがあったからである。そこで、怒声を浴びせかけた。
「やあ汝《おのれ》は同門の、飛田庄介に前川満兵衛! 何と思って切ってかかったぞ?」
 だがここまで云って来て、急に矩之丞は口を噤《つぐ》んだ。
「いよいよこいつら隠密だわえ。それと観破したこの俺を、邪魔にして殺そうとするのらしい。いやかえって面白い。知れた手並だ、叩っ切り、中斎先生の身辺から、危険分子を払ってやろう」
 ――矩之丞はそこでヌッと出た。
 だが、何と危険なんだ、又も一つの人影が、木立の陰から現われたが、矩之丞の背後へシタシタと寄った。
 途端に飛び込んで来た前面の敵、すなわち飛田と前川が、鋭く声を掛け合ったのは、牽制しようとしたのだろう。果然、同時に、背後の敵、こいつは無言で抜き持った太刀で、矩之丞の背骨
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