居らず、立聞きもせず、店へ参って居りますと、やがてそのお方がお帰りになり、主人も送って出られましたが、その時の主人の顔の様子が、変わって居りましてございます。不安の気持とでも申しましょうか、そんなようなものが顔に見え、おどつ[#「おどつ」に傍点]いていたのでございますが『困った奴だ! 源三郎め! これが本当なら勘当ものだ! えいこうしてはいられない! 調べてやろう! 調べてやろう』と、呟いたものでございます。……それから奥へ入りましたが、どうしたものでございましょうか、それっきり姿が消えましたので、一同大きに驚きまして、諸所方々を探しましたが、今にかいくれ[#「かいくれ」に傍点]知れませんような次第、裏木戸から外へでも出ましたものか、錠が破壊《こわ》れて居りました。……しかも、その晩には若旦那にも、家へ帰っておいでなされず、いまだに帰られないのでございます。……そういう不思議な出来事が、一度に起こって参りましたので、お可哀そうにもお嬢様には。……」
こうここまで云って来て、手代の長吉は口を噤んだ。
と云うのは側《そば》にお嬢様が――すなわち品子という十八の娘が、放心したような顔をし
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