[#「ひん」に傍点]剥いて、自分の衣裳の上へ着て――着ふくれ[#「ふくれ」に傍点]ていたっていうことだからな――手代に化けてこの旅籠から、脱出して行ったというものさ。……行燈の火が消えたという。案内の女中に化けた姿を、感付かれまいために宇和島という武士が、行燈の側を通る時、袂でも振って消したのさ。……さて疑問として残るのは、衣裳を剥がれた贋手代の、可哀そうな身柄がどこにあるかってことさ……」
この時開けずの間の建物の中から、物の気勢《けはい》が聞こえてきた。
「いつからともなく柏屋の庭に、開けずの間という建物があって、一切人を内へ入れず、一切人を寄せ付けず、厳《おごそか》に鎮座ましますと、世間の噂に立つようになったが、どう考えてもおかしいよ」
口の中での呟きである。
「どだい建物というものは、人が住むために建てるものだ。人の住めない建物なら、さっさと壊すがいいじゃアないか。そんな建物を建てて置く! どうでも二二ンが四じゃアない」
胸の中で珠算をやり出した。
「もっとも」と、これも口の中である。
「お宮と云ったような建物もある。だがもしそいつ[#「そいつ」に傍点]がお宮なら、神様が
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