ぞ」
独り言を云いながら考え出した。
すると、その時扉をあけて、スッと入って来た女があった。
「大変な芝居をなさいましたねえ」
女役者の扇女《せんじょ》である。
「ほほうお前か、見ていたか。舞台の芝居より凄かろう」
「血糊と異って流されたは、本当の血でございましたからね」
「どうだ扇女、物は相談、凄味に惚れちゃアくれまいかな」
「そうですねえ、考えましょうよ、一つじっくり[#「じっくり」に傍点]と考えましょうよ」
「そのじっくり[#「じっくり」に傍点]だが、気に入らないな。それにさ恋というものは、考えてやらかすものではない。と、こんなように思うがの。大概考えている中に、恋というものは逃げてしまう」
「逃げてしまうような恋でしたら、やらない方が可《よ》いでしょう」
「これが秘決だ! 無分別! どうだこいつでやらかそう!」
「ところが妾《わたし》は天邪鬼《あまのじゃく》で、無分別が恋の秘決なら、思慮熟慮で行きましょう」
「理詰めで行こうとこういうのか?」
「そうですねえ、そうでしょうよ」
「オイ」と大学猛くなった。
「その理詰めだが嵩ずるとな……」
「どうなろうと仰有《おっしゃ》るの
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