ましてございます」
「そうして六歌仙は揃ったか?」
「はいようやく三本ほど」
「ううむ、そうか、どこで取ったな?」
「そのうち二本は専斎という柳営奥医師の秘蔵の品、女中に化けて住み込んで盗み出してございます」
「二十日ほど家をあけた時か?」
「へえ、さようでございます」
「もう一本はどこで取った?」
「これは藪という旗本の宝、木曽街道の松並木で私の相棒が掠《す》りました」
「相棒の眼星もついているが、それは他人で関係がねえ。……で、四本目はまだなのか?」
「へえ、まだでございます」
「二十五日は上覧芝居、お前も西丸へ連れて行く」
「へえ、有難う存じます」
「お前を西丸へつれて行くんだ」
「へえ、有難う存じます」
「いいか悪いかしらねえが、まあ俺の心づくしさ」
「へえ、有難う存じます」
「部屋へ帰って休むがいい」
団十郎はこういうと煙管をポンと叩いたものである。
西丸の大廊下
旧記によれば上覧芝居は二十八日とも記されているが、しかし本当は二十五日で、この時の西丸の賑やかさは「沙汰の限りに候《そろ》」と林大学頭が書いている。
朝の六時から始まって夜の十一時に及んだといえ
前へ
次へ
全111ページ中94ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング