六歌仙よ、揃ったかな?」
「それじゃ親方! お前さんも……」
「王朝時代の大泥棒、明神太郎から今日まで、二百人に及ぶ泥棒の系図、それから不思議な暗号文字《やみことば》――道標《みちしるべ》、畑の中、お日様は西だ。影がうつる。影がうつる。影がうつる。――ええとそれから註釈《ことわりがき》、「信輔筆の六歌仙、六つ揃わば眼を洗え」……実はこいつを見た時には俺もフラフラと迷ったものさ。あの書き附けは賊の持ち物、そいつを付けて捨てられたお前、やはり賊の子に相違ねえと、育てながらも心配したが、これまで別にこれという変わったこともなかったので、やれ有難いと思っていたに、とうとう本性現わして大きいところへ目を付けたな! 俺が止めろと止めたところでおいそれ[#「おいそれ」に傍点]といって止めるようなそんな小さい望みでもねえ。やるつもりならやるもいいが江戸の梨園《りえん》の総管軸この成田屋の身内としてこれまで通り置くことは出来ぬ。上覧芝居を限りとして破門するからその意《つもり》で、とっくり考えておくがいい……そこでもう一度尋ねるが、書き附けを取りはしねえかな?」
「何んとも申し訳ございません。たしかに盗み
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