で、その奇妙な一行が紋太郎には気になった。
「……邸を見張ろうか? 駕籠を尾行《つけ》ようか? どうもこいつは困ったぞ。……えい思い切って駕籠を尾行《つけ》てやれ!」
彼はようやく決心し、駕籠の後を追っかけた。
日本橋から東海道を、品川、川崎、神奈川と駕籠と馬とは辿って行く。
程《ほど》ヶ谷、戸塚と来た頃にはその日もとっぷりと暮れてしまった。彼らの泊まったのは藤屋という土地一流の旅籠屋であった。そこで紋太郎も同じ宿へ草鞋《わらじ》を解かざるを得なかった。
駕籠を追って
馬の鈴音、鳥の声、竹に雀はの馬子の唄に、ハッと驚いて眼を覚すと紋太郎は急いで刎ね起きた。雨戸の隙から明けの微茫が蒼く仄々《ほのぼの》と射している。
その時|使女《こおんな》が障子をあけた。
「もうお目覚めでございますか。お顔をお洗いなさりませ」
「うん」といって廊下へ出る。
「階下《した》のお客様はまだ立つまいな?」
何気なく女に訊いてみた。
「階下《した》のお客様とおっしゃいますと?」
「駕籠を座敷まで運ばせた客だ」
「はいまだお立ちではございません」
「駕籠の中には誰がいたな」
「さあそれが
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