ある。
と、和泉守が囁いた。
「上州安中三万石、板倉殿の同勢でござるよ」
「ははあ、さようでございますかな」紋太郎はちょっと躊躇《ためら》ったが、「それに致しても何用ござってそのように立派な諸侯方がこのような夜陰に写山楼などへおいで遊ばすのでござりましょう」
「それか、それはちと秘密じゃ」
和泉守は笑ったらしい。「見られい。またも参られるようじゃ」
はたして遙かの闇の中に二三点の灯がまばたいたがだんだんこっちへ近寄って来る。やはり同じような同勢であった。真ん中に駕籠を囲んでいる。門まで行くと門が開き忽ち中へ吸い込まれた。
「犬山三万五千石成瀬殿のご同勢じゃ」
和泉守は囁いた。それから追っかけてこういった。「大御所様二十番目の姫|満千姫君《まちひめぎみ》のお輿入《こしい》れについては、お噂ご存知でござろうな?」
「は、よく承知でござります」
「上様特別のご愛子じゃ」
「さよう承わっておりまする」
「お輿入れ道具も華美をきわめ、まことに眼を驚かすばかりじゃ」
「は、そうでございますかな」
「今夜のこともやがて解ろう。……おおまたどなたかおいでなされたそうな」
はたして提灯を先に立
前へ
次へ
全111ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング