だ」
「ああそのお方でござりますか。さっきお帰りになられました。綺麗な小粋《こいき》な若いお方で」
「え? なんだって? 若い方だって?」
「はいさようでございますよ」
秘密の端緒をようやく発見
「いいや違う。穢《きたな》い老人だ」
「何を旦那様おっしゃることやら。ええとそれからそのお方がこういうものを置いてゆかれました。旦那様へ上げろとおっしゃいましてね」
云い云い三右衛門の取り出したのは美しい一枚の役者絵であった。すなわち蝶香楼国貞筆、勝頼に扮した坂東三津太郎……実にその人の似顔絵であった。
「貧乏神が役者絵をくれる。……どうも俺には解らない」
紋太郎は不思議そうに呟いたが、まことにもっとものことである。
「お役付きにもなりましたし、お役料も上がりますし、せめて庭などお手入れなされたら」
用人三右衛門の進めに従い、庭へ庭師を入れることにした。
紋太郎|自《みずか》ら庭へ出てあれこれ[#「あれこれ」に傍点]と指図をするのであった。
ちょうど昼飯の時分であったが、紋太郎は何気なく庭師に訊いた。
「ええ、そち達は商売がら山手辺のお邸へも時々仕事にはいるであろうな
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