う声を聞くとすぐ縁側へ出て行った。
「また賊がご隣家へはいったそうな。よくよく泥棒に縁があると見える」
呟きながら佇んでいると、庭を隔てた黒塀の上へ突然人影が現われた。
「さてこそ賊」と庭下駄を穿き庭を突っ切り追い逼ったが奇妙にも賊は逃げようともしない。
「藪殿か。私《わし》じゃ私じゃ」
ヌッと顔を突き出した。
「おおあなたは貧乏神様で?」紋太郎はすっかり胆を潰した。
「さようさようその貧乏神じゃ。……何んとその後はいかがじゃな?」
「はい、近頃はお陰をもって……」
「ふむふむ、景気がよいそうな。それは何より重畳《ちょうじょう》重畳。みんな私のお陰じゃぞよ。なんとそうではあるまいかな。数代つづいて巣食っていた貧乏神が出て行ったからじゃ」
「仰せの通りにござります」
「で、私には恩がある。な、そうではあるまいかな?」
「はいはい、ご恩がございますとも」
「では、返して貰おうかな?」
「しかし、返せとおっしゃられても……」
「何んでもござらぬ。隠匿《かくま》ってくだされ」
「はて隠匿《かくま》うとおっしゃいますのは? ああ解りました。では[#「では」に傍点]あなた様は、また当邸へおいで
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