に比べて二十倍はあろうか。とにかくかつて見たことのない奇怪な巨大な鳥であった。
グーン、グーン、グーン、グーン、かつて一度も聞いたことのない形容を絶した気味の悪い声! そういう啼き声を立てながら悠然と舞っているのであった。
家斉公はまじろぎ[#「まじろぎ」に傍点]もせず大鵬の姿を見詰めていたが、
「聞きも及ばぬ化鳥のありさま。このまま見過ごし置くことならぬ! 誰かある射って取れ!」
「はっ」と返辞《いら》えて進み出たのは近習頭白須賀源兵衛であった。
「おおそちなら大丈夫じゃ。矢頃を計り射落とすがよいぞ」
「かしこまりましてござります」
近習の捧げる重籐《しげどう》の弓をむず[#「むず」に傍点]と握って矢をつがえたが、二間余りつと[#「つと」に傍点]進むと、キリキリキリと引き絞った。西丸詰めの侍のうち、弓術にかけてはまず源兵衛と人も許し自分も許すその手練の引き絞った弓、千に一つの失敗もあるまいと、供の一同声を殺し、矢先に百の眼を集めたとたん、弦音高く切ってはなした。その矢はまさに誤たず大鵬の横腹に当ったが、こはそもいかに肉には通らず、戞然《かつぜん》たる音を響かせて、二つに折れた矢
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