群れが来る。
その一群れは足並揃えて粛々《しゅくしゅく》とこっちへ近寄って来る。同勢すべて五十人余り、いずれも華美《きらびやか》の服装《よそおい》である。中でひときわ目立つのは狩装束に身を固めた肥満長身の老人で、恐ろしいほどの威厳がある。定紋散らしの陣帽で顔を隠しているので定かに容貌《かお》は解らないものの高貴のお方に相違ない。五人のお鷹匠、五人の犬曳き、後はいずれもお供と見えてぶっ裂き羽織に小紋の立付《たっつけ》、揃いの笠で半面を蔽い、寛《くつろ》いだ中にも礼儀正しく老人を囲んで歩を運ぶ。
「さては諸侯のお鷹狩りと見える。肥後か薩摩かどなたであろう。いずれご大身には相違ないが」
紋太郎は心中|審《いぶか》りながら、逢っては面倒と思ったので林の中に身を隠し木の間から様子を窺った。
鷹狩りの群れは近寄って来る。
近づくままよく見れば、老人の冠られた陣帽に、思いも寄らない三葉葵が黄金《きん》蒔絵《まきえ》されているではないか。疑がいもなく将軍ご連枝。お年の恰好ご様子から見れば、十一代将軍家斉公。西丸へご隠居して大御所様。そのお方に相違ない!
紋太郎はハッと呼吸《いき》を呑んだ。持
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