ょうがな?」
「どうも不思議だ。まさにその通り」紋太郎は思わず腕を組んだ。
「同じ作者の同じ名画、喜撰法師の一幅は現在旦那様が持っておられる筈じゃ。何も驚かれることはない。布呂敷包みの細長い荷物。膝の上のその荷物。それが喜撰様でございましょうがな。……そうして旦那様は知行所で、そのご家宝の喜撰様を金に代える気でござりましょうがな」
「むう」と紋太郎は思わず唸ったが、
「ははあさようか、いや解ったぞ。察するところそのほうは邸《やしき》近くの町人であろう。それで事情を知っているのであろう」
「はいさようでございますよ。旦那様のすぐお側《そば》に住んでいる者でございますよ」
「ついぞ見掛けぬ仁態じゃが、どこら辺りに住んでいるな?」
「ほんのお側でございます旦那様のお邸内で」
「莫迦を申せ」
 と紋太郎は苦々しく一つ笑ったが、
「邸の内には用人とお常という飯煮《めした》き婆。拙者を加えて三人だけじゃ」
「へへへ」
 と老人はそこでまた気味悪く笑ったが、
「どう致しましてこの老人《わたくし》は、ご尊父様の時代からずっとずっとお邸内に住居しているものでございますよ」
 ははあこいつ狂人《きちがい》
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