大鵬のゆくえ
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)気障《きざ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)杉田|忠恕《ちゅうじょ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)益※[#二の字点、1−2−22]《ますます》
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    吉備彦来訪

 読者諸君よ、しばらくの間、過去の事件について語らしめよ。……などと気障《きざ》な前置きをするのも実は必要があるからである。
 一人の貧弱《みすぼらし》い老人が信輔《のぶすけ》の邸を訪ずれた。
 平安朝時代のことである。
 当時藤原信輔といえば土佐の名手として世に名高く殊には堂々たるお公卿様。容易なことでは逢うことさえ出来ない。
「そんな貧弱《みすぼらし》い風態でお目にかかりたいとは何んの痴事《たわごと》! 莫迦を云わずと帰れ帰れ」
 取り次ぎの者は剣もホロロだ。
「はいはいごもっともではござりますが、まあまあさようおっしゃらずにお取り次ぎお願い申します。……宇治の牛丸が参ったとこうおっしゃってく
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