こうして時間が経って行く。
 と、射していた蒼い光が忽然パッと消えたかと思うと天地が全く闇にとざされ木立にあたる深夜の嵐がにわかに勢いを強めたと見えピューッピューッと凄い音を立てた。
「表門の方へ」
 といいすてると和泉守は歩き出した、一同その後について行く。
 榎木の蔭に佇《たたず》んで表門の方を眺めているとギーと門が八文字に開いた。タッタッタッタッと駕籠を守って無数の同勢が現われたが、毛利侯を真っ先に二十一|頭《かしら》の大名が写山楼を出るのであった。
 再び闇の空地を通い諸侯の駕籠の町に去った後の、写山楼の寂しさは、それこそ本当に化物屋敷のようで、見ているのさえ気味が悪かった。
「もう済んだ」
 と呟くと和泉守は合図をした。いわゆる引き上げの合図でもあろう、手に持っていた龕燈《がんどう》を空へ颯《さっ》と向けたのである。それと同時に物の蔭からむらむらと[#「むらむらと」に傍点][#「むらむらと[#「むらむらと」に傍点]」は底本では「らむらと[#「らむらと」に傍点]」]人影が現われたが、人数およそ百人余り、悉く与力と同心であった。
「藪氏」
 と和泉守は声をかけた。「おさらばでござる。いずれ殿中で……」
「は」
 といったが紋太郎はどういってよいかまごついた。
「あまり道など迷われぬがよい。アッハハハお帰りなされ」
 いい捨て部下を引き連れると町の方へ引き上げて行った。
 後を見送った紋太郎はいよいよ益※[#二の字点、1−2−22]とほん[#「とほん」に傍点]として茫然《ぼんやり》せざるを得なかった。
「これはこれは何という晩だ! これはこれは何ということだ!」
 つづけさまに呟いたが、何んの誇張もなさそうである。


    駕籠と馬

 こういうことがあってからいよいよ益※[#二の字点、1−2−22]紋太郎は写山楼へ疑惑の眼を向けた。
「どうも怪しい」と思うのであった。
「専斎殿の話によれば、ちょうど吹矢で射られたような不思議な金創の人間を、あの写山楼の百畳敷でこっそり療治をしたというが、あるいはそれは人間ではなくて例の化鳥と関係あるもの――半人半妖というような妖怪変化ではあるまいか? それにもう一つ何んのために二十一人の大名があの夜あそこへ集まったのであろう? そうして奇怪な妖怪|舞踊《おどり》!」――こう考えて来ると紋太郎には、あの名高い写山楼なるも
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