台と慶喜公とは助けなければならない。……どいつもこいつも血迷っている。醒めているのは俺だけだ。俺がそいつらを助けなかったら、一体誰が助けるのだ。俺を絶対に殺すことは出来ぬ。殺したが最後日本は闇だ。……官軍の中にも解《わか》る奴がいる。他でもない西郷だ。西郷吉之助ただ一人だ。で俺はきゃつに邂逅《ゆきあ》い、赤心を披瀝して談じるつもりだ。解ってくれるに相違ない。そこで江戸と江戸の市民と、徳川家と慶喜公とは、助けることが出来るのだ。その結果内乱は終息し、日本の国家は平和となり、上下合一、官民一致、天皇帰一、八|紘《こう》一|宇《う》、新時代が生れるのだ」

21[#「21」は縦中横]

 安房守《あわのかみ》[#ルビの「あわのかみ」は底本では「あはのかみ」]はじっと耳を澄ました。
 空では星がまばたい[#「まばたい」に傍点]ていた。ふと[#「ふと」に傍点]小銃の音がしたが、しかしたった[#「たった」に傍点]一発だけであった。
 清元《きよもと》の唄はなお聞えた。
「ああいいなあ。名人の至芸《しげい》だ」安房守は嘆息した。それから大声でやり出した。「俺はもとからの江戸っ子だ。俺の好きなのは平民
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