の前へ坐りこむと、先ず髪から簪を抜き、その足を鍵穴へ差し込んだ。しかし錠前は外れなかった。
で、手箱を膝の上へのせ、しばらくじっと[#「じっと」に傍点]考え込んだ。
見る見る彼女の眼の中へ燃えるような光が射して来た。
彼女は突然叫び出した。「泥棒《どろぼう》でございます泥棒でございます!」
そうして手早く杉の手箱を自分のふところ[#「ふところ」に傍点]へ捻じ込んだ。
けたたましい声に仰天して、家の人達が集まって来たのは、その次の瞬間のことであったが、いかさま縁にも座敷にも泥足の跡が付いているので、賊の入ったことは証拠立てられた。
そこで八方へ人が飛んだ。しかし賊は見付からなかった。
そうして何を盗まれたものか、かいくれ[#「かいくれ」に傍点]見当がつかなかった。
と云うのは金にも器類にも、紛失したものがないからであった。
19[#「19」は縦中横]
ちょうど同じ夜の出来事である。
岡山頭巾で顔を包んだ、小兵の武士が供もつれず、江戸の街を歩いていた。
すると、その後を従《つ》けるようにして、十人ばかりの屈強の武士が、足音を盗んで近寄って来た。
覆面の武士は幕府
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