て捨身の度胸が定《き》まり、義哉の心は澄み返った。そこで、膝へ両手を重ね、頸をグイと前へ延ばした。
 それと見てとると例の浪士は、やおら立ち上って太刀を抜いたが、「神妙のお覚悟感じ入ってござる、何か遺言はござらぬかな」
「左様」と云って首をかしげたが「ちょっと三味線をお貸し下され」
 ここに至って浪士どもは、唖然たらざるを得なかった。
「何になさるな?」と例の浪士が訊いた。
「中途で弾き止めた清元の『山姥《やまうば》』、今生《こんじょう》の思い出に了《お》えとうござる」
「ははあ」と云うと例の浪士は、仲間の者と眼を見合わせたが、やがて頤で合図をした。瞽女《ごぜ》に扮した浪士の一人が、そこで三味線を押しやった。
 艶《えん》に床《ゆか》しい三味線の音色が、毛脛屋敷から洩れたのは、それから間もなくのことであった。

18[#「18」は縦中横]

 ちょうど同じ夜のことであったが、芝三田の義哉《よしや》の家では、奇怪な事件が行なわれた。主人義哉が出かけて行った後、小間使のお花は雇女《ばあや》と一緒に、台所で炊事を手伝っていた。
 と、口笛の音がした。
 物みな懐かしい春の宵で、後庭では桜が散
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