むら》一座のな。俺らその人に頼まれて、お前を迎いに来たってやつよ」
 トン公はそこで気が付いたように、
「だがお前は出られめえな、なにせ大家のお嬢さんだし、もう夜も遅いんだからな」
「行くならこのまま行っちまうのさ」
「だが後でやかましいだろう?」
「そりゃあ何か云われるだろうさ」
「困ったな、では止めるか。止めにした方がよさそうだな」
「くずくず云ったら飛び出してやるから、そっちの方は平気だよ。それより妾《わたし》にゃその人の方が気味悪く思われるがね」
「うん、こっちは大丈夫だ。俺らが付いているんだからな」
「では行こうよ。思い切って行こう」
 そこで二人は露地を出て、浅草の方へ足を運んだ。
「トン公」とお錦は不意に云った。「今日|彼奴《あいつ》らと邂逅《でっくわ》したよ。源公《げんこう》の奴と親方にね」
「え!」とトン公は怯えたように声を上げたが「ふうんそいつあ悪かったなあ。一体どこで邂逅したんだい?」
「観音様の横手でね」
「それじゃ今日の帰路《かえり》にだな」
「お前と別れてブラブラ来るとね、莚《むしろ》の上で親方がさ、えて[#「えて」に傍点]物を踊らせていたじゃないか」
「ふ
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