おい》らほんとに嬉しいよ」ややあってこうトン公が云った。
「お前はそうでもあるめえがな」
「いいえ妾だって嬉しいよ」本心からお錦は云うのであった。「何といったって昔馴染だからね」
「そう云われると嘘にしても俺らは素敵にいい気持だよ」
なるたけ人のいない方へと二人は歩いて行くのであった。
「それじゃお前さんはここ当分玉乗の一座にいるんだね」
「他に行き場もないからな」
「それじゃいつでも逢えるのね」
「だが余《あんま》り逢わねえがいい、今じゃ身分が異《ちが》うんだからな」
「莫迦をお云いな。逢いに行くわよ」
「それに親方も源公もいずれ江戸の地にはいるんだからな、あんまり暢気《のんき》に出歩いていて目付けられると五月蠅《うるさい》ぜ。何しろ源公ときたひにゃア、未だにお前に夢中なんだからな」
「源公なんかにゃ驚かないよ」お錦はむしろ冷笑した。「それこそ一睨みで縮ませて見せるよ」
「そりゃあマアそうに異《ちげ》えねえが……」
トン公はやはり心配そうであった。
7
二三日経った或日のこと、浅草観音の堂の側《わき》に、目新しい芸人が現われた。莚を敷いたその上で大きな鼬を躍らせるのであった
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