わし[#「わし」に傍点]はすっかり満足した。もうわし[#「わし」に傍点]は死んでもいい。どうぞ立派に暮らしておくれ。……さて例の宝壺だが、これは吉凶《きっきょう》両面の壺だ。悪人が持てば祟《たた》りがあるが、だが善人が持つ時は、福徳円満を得るそうだ。可愛い可愛いわし[#「わし」に傍点]の娘よ、どうぞ心を綺麗に持って、よい暮らしをしておくれ。そうして地図を手頼《たよ》りにして、釜無川の中洲へ行き、宝壺を掘り出すがいい」
読んでしまうと二人の者は、互に顔を見合わせた。意外な事実に驚いたのである。
「それでは気味の悪かったお爺さんは、妾《わたし》の実の親だったのかねえ?」
お錦の感慨は深かった。
「そのお父さんはどうしたろう?」
そのお父さんはとうの昔に、病気でこの世を去っていた。
そうして現在の二人にとっては、宝壺などは不必要であった。
なぜというに今の二人は、充分幸福だからである。
底本:「国枝史郎伝奇全集 巻一」未知谷
1992(平成4)年11月20日初版発行
初出:「太陽」博文館
1925(大正14)年7月〜12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる
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