大捕物仙人壺
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)伊太郎《いたろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)お前|魅《みい》られたぜ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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 女軽業の大一座が、高島の城下へ小屋掛けをした。
 慶応末年の夏の初であった。
 別荘の門をフラリと出ると、伊太郎《いたろう》は其方《そっち》へ足を向けた。
「いらはいいらはい! 始まり始まり!」と、木戸番の爺《おやじ》が招いていた。
「面白そうだな。入って見よう」
 それで伊太郎は木戸を潜った。
 今、舞台では一人の娘が、派手やかな友禅の振袖姿で、一本の綱を渡っていた。手に日傘をかざしていた。
「浮雲《あぶな》い浮雲い」と冷々しながら、伊太郎は娘を見守った。
「綺麗な太夫《たゆう》じゃありませんか」
「それに莫迦に上品ですね」
「あれはね、座頭の娘なんですよ。ええと紫錦《しきん》とか云いましたっけ」
 これは見物の噂
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