な。ほんとにほんとに莫迦にしていやがら」
しかしどんなに悪口を云っても、それに答えるものさえない。自分自身が悪口を云い、自分自身が聞くばかりであった。
夜は次第に更けまさり、家の内外ひっそり[#「ひっそり」に傍点]とした。
「考えていたって仕様がねえ。こんな晩は寝た方がいい。明日は早速ご出立だ。お花の畜生め覚えていやがれ。彼奴《あいつ》さえあんな物を持って来なけれりゃあ、こんなへマは見ねえんだ。江戸へ帰ったらあいつ[#「あいつ」に傍点]を呼び付け、みっしり[#「みっしり」に傍点]叱ってやらなけりゃならねえ」
夜具を冠って寝てしまった。
いわゆる丑満の時刻になった。
と、間《あい》の襖《ふすま》が開き、何かチロチロと入って来た。それは一匹の大|鼬《いたち》であって、颯《さっ》と床間《とこのま》へ駈け上ると、壺と地図とを両手で抱え、それから後足で立ち上り、静かに隣部屋へ引返した。
友蔵は勿論知らなかった。しかし翌日発見した。発見はしたが驚かなかった。「へん、間抜けな泥棒め、盗むものに事をかき、あんなつまらねえ物を盗みやがった」
それで、却ってサバサバして、江戸をさして引返して行った。
27[#「27」は縦中横]
ここは深川の木賃宿である。香具師《やし》の親方の「釜無の文」は、手下の銅助を向うに廻し、いい気持に喋舌《しゃべ》っていた。傍に檻が置いてあり、中に大鼬が眠っていた。
二人の前には壺と地図とが、大切そうに置いてあった。
窓から夏の陽が射していて、喚気法の悪い部屋の中は、汗ばむ程に熱かった。
「……と、つまり、云うわけさ。ナーニ、ちょろりと横取りしたのさ。へん、えて[#「えて」に傍点]物さえ使ったらどんな宝物だって盗まれるんだからな」
得意そうに文は話し出した。
「ところで親方、その壺には、何が入っているんですえ?」こう不思議そうに銅助は訊いた。姦悪の相の持主で、文に負けない悪党らしかった。
「そいつア俺にも解らねえ」文は渋面を作ったが、「福の神だということだ。とにかくこいつ[#「こいつ」に傍点]を持っていると、いい目が出るということだ……これはな、伝説による時は、支那から渡ったものだそうな。甲府のお城にあったものさ。元禄《げんろく》時代の将軍家、館林《たてばやし》の綱吉《つなよし》様が、ある時お手に入れられた所、間もなく江戸城お乗込み、将
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